2013年7月21日日曜日

CCF測定 in ICLS

ICLS WSのCDをしたりと、最近ICLSへの関わりもそれなりにあります。
自分の本拠地はAHAコースですが、良き学びの場であれば、AHAコースだろうが、ICLSだろうが、その他のコースだろうが、あまりこだわりなく、協力したいですし、自分も学びが得られれば嬉しいです。

ということで、昨日は当直明けでしたが、当院開催のICLSコースに参加しました。

重要な担当パートもなく、時間を作れましたので、CCF: Chest Compression Fraction (胸骨圧迫施行時間/全CPR時間)を測定してみました。AHAはCCF>80%が推奨です。
心停止と判断して胸骨圧迫を開始した時間から、ROSCと判断した時間までを全CPR時間としました。
測定できたシナリオのCCF(%)は以下の通り。

VTシナリオ:69%、56%、73%、70%、45%、72%
PEAシナリオ:76%
複合シナリオ:67%、74%、67%

80%に達しない主な理由として、VFに対する除細動の際の胸骨圧迫中断、脈拍チェックの中断、の影響が大きい印象を受けました。

当院のICLSは、看護師や医師看護師以外の職種の、救急医療に関しては経験の少ない方の参加が多いので、安全第一の方針です。故に充電中の胸骨圧迫は特に推奨していません。また、AHA ACLSと異なり、パルスチェックとリズムチェックの使い分けをしてらず、VF継続中でも必ずパルスチェックをするような方針になっています(理由は知りません笑)。

総じて言うと、CCF>80%って、なかなか大変と感じました。
「絶え間ない胸骨圧迫が重要」と言うだけでは、達成できません。

これを達成するためには、

①充電中の胸骨圧迫継続
②リズムチェック、パルスチェックの使い分け、これらのスキルの向上(いい加減ではなく、かつ迅速に)

この2点が必要かと思いました。

当院で行っているAHAコースなら、達成できそうかな、という印象ではあります。次回測定してみたいです。
ただし、時間・業務に余裕がないと、マニュアルで測定するのは難しいと感じました。
Heart Simのプログラムでは測定できるのかな?未確認です。測定できるのなら楽ですね。

でもうちのAHAコースは主に、高研のセーブマン。。。。。

2013年7月19日金曜日

心室粗動 Ventricular Flutter

心室粗動 Ventricular Flutterって何ですか?と質問されたら困りませんか?。
僕は困ります笑。

ちょっと調べてみました。


Braunwald  Heart Diseaseには、

「規則正しい大きな振幅のサインカーブを呈した150-300bpm(通常200)の波形です。早いVTと心室粗動の区別は困難で、通常は学問的な関心に過ぎません。ともに、血行動態に破綻します。」

と書かれています

P813に出ている心室粗動のFigureです。確かに、VTと区別つきません。。。




Chou's Electrocardiography in Clinical Practiceには、「VTと心室粗動の相違は、心拍数よりも主に波形の形状に基づいている」「心室複合体(→つまりQRS)の個々の形状が認識出来なくなったとき、心室粗動と診断される」とあります。後者は特によくわかりません。
同本P426に出ている心室粗動のFigureです。一応、QRSは認識できると思うけれど。。??


Up To Dateには、「心室粗動とは、とても速い−通常300bpm程の単形性心室頻拍です。T波は識別不能で、QRS間の基線は認めません。P波はも認めません。」とあります。
VTと区別していないような記載です。VTの一亜形?


本によって、微妙なばらつきがあります。

ということで、質問されたら、

「規則正しい大きな振幅のサインカーブを呈した150-300bpm程の波形です。速い単形性VTとの区別は難しいです。VTと同様に扱えばよいです。」

てな感じで対応してみようと思います。





2013年7月17日水曜日

VT波形が出ています。来て下さい。

先日の当直中、病棟の看護師からPHSが鳴り、AM5時のモーニングコール、ねむ(笑)。
高齢女性、CABG術後数日。


「VT波形が出ています。来て下さい。」





うーん。なるほど。。。。。


【問題】 循環器医として、よくある対応、望ましい対応を選択ください。        
①幅広いQRSで、確かにVTだね。主治医に連絡して対策講じてもらって。

②これはノイズだよ。もっとよく見てくれよ。こんなことで呼ばないでくれよ。

③確かに、QRS幅が広い頻拍、即ちVTに見えるね。VTが否定できないときは呼んでくれて良いよ。呼んでくれてありがとう。でもね、これよく見るとノイズだね。

④確かに、QRS幅が広い頻拍、即ちVTに見えるね。VTが否定できないときは呼んでくれて良いよ。呼んでくれてありがとう。この心電図、一緒に見てみよう。この波形の中のノッチのような部分、どう思う?


お察しの通り、これはノイズです。幅の広いQRS(らしきもの)の中に、元来の洞調律の狭いQRSが混在しています(赤丸)。洞調律にノイズが重なっていることが分かります。

以前も同様の記事を書いています。




結構よくあることです。実は、この日の当直、上記の一件以外にも、もう一件、同様にノイズをVTと認識し、焦ってコールされた事例がありました。

僕は、勿論、どちらも、④で対応しました。


2013年7月13日土曜日

CPR Quality まとめ

まとめです。訳が変なところもありますので、原文も載せておきます。

1. 質の高いCPRは、全ての蘇生努力がなされた礎として認識されるべきである。目標とするCPRのパフォーマンスの要素は以下の通り。
a. CCF>80%
b. 胸骨圧迫の速さ100-120/分
c. 胸骨圧迫の深さ50mm以上(成人)で、胸壁へのもたれを残さない
(乳児、小児においては胸壁前後径の少なくとも1/3)
d. 過換気を避ける(胸壁挙上は最小限、換気回数毎分12未満)

2. 全ての心停止はプロフェッショナルの救助者が対応する
a. チームのCPRパフォーマンスをモニターするモダリティーを少なくとも1つは使用する
b. 蘇生努力に対する傷病者の生理的反応をモニターするモダリティーを少なくとも1つは使用する。
c. 傷病者の生理的反応に応じ蘇生努力を継続的に調整する

3. 蘇生チームは、以下により、CPRを適正化すべく協力すべきである
a. 迅速に胸骨圧迫を開始し、CPRのパフォーマンスを早期に適正化する
b. チームリーダーは蘇生努力を監視し、迅速かつ適正なCPRパフォーマンスを効果的に促す
c. 高度な医療行為や移送したりする間、適切なCPRを継続する

4. 蘇生に関わる管理システム(EMSや病院、その他プロフェッショナルな救助プログラム)は、
a. 特異的な役割を担う協同コードチームを決定し、イベントを通じて質の高いCPRを施行できることを確認する
b. 心停止の毎にCPRパフォーマンスのデータを収集し、CPRの質改善プログラムに活用し将来の蘇生努力を適正化する
c. CPRの質の継続的な改善のための方策を実行し、教育、能力の調整、使用可能なCPRの質の指標を含めた心停止の病態のレビューを統合する

5. CPRの質の指標の報告を国として標準化することにより、以下を発展させるべき
a. CPRの質の指標は、国のレジストリー、データベースに含まれ、収集されるべきである。そしてレビューし、報告し、蘇生の調査研究を実行する。

b. AHAや、適切な政府機関、デバイスメーカーは業界のスタンダードを発展させ、質改善やリサーチの為に収集された蘇生中のデータから、生データを抽出し相互運用できるようにする


Final Recommendations
1. High-quality CPR should be recognized as the foundation on which all other resuscitative efforts are built. Target CPR performance metrics include
a. CCF >80%
b. Compression rate of 100 to 120/min
c. Compression depth of ≥50 mm in adults with no residual leaning
i. (At least one third the anterior-posterior dimension of the chest in infants and children)
d. Avoid excessive ventilation
i. (Only minimal chest rise and a rate of <12 breaths="" min="" p="">
2. At every cardiac arrest attended by professional rescuers
a. Use at least 1 modality of monitoring the team’s CPR performance
b. Depending on available resources, use at least 1 modality of monitoring the patient’s physiological response to resuscitative efforts
c. Continually adjust resuscitative efforts based on the patient’s physiological response
3. Resuscitation teams should coordinate efforts to optimize CPR during cardiac arrest by
a. Starting compressions rapidly and optimizing CPR performance early
b. Making sure that a team leader oversees the effort and delegates effectively to ensure rapid and optimal CPR performance
c. Maintaining optimal CPR delivery while integrating advanced care and transport
4. Systems of care (EMS system, hospital, and other professional rescuer programs) should
a. Determine a coordinated code team response with specific role responsibilities to ensure that high-quality CPR is delivered during the entire event
b. Capture CPR performance data in every cardiac arrest and use an ongoing CPR CQI program to optimize future resuscitative efforts
c. Implement strategies for continuous improvement in CPR quality and incorporate education, maintenance of competency, and review of arrest characteristics
that include available CPR quality metrics
5. A national system for standardized reporting of CPR quality metrics should be developed:
a. CPR quality metrics should be included and collected in national registries and databases for reviewing, reporting, and conducting research on resuscitation
b. The AHA, appropriate government agencies, and device manufacturers should develop industry standards for interoperable raw data downloads and reporting
from electronic data collected during resuscitation for both quality improvement and research

2013年7月10日水曜日

CPR Quality 10:教育方針

BLSやACLSのトレーニングは、命を救い、臨床的アウトカムを改善し得る基本的知識・スキルを提供します。
しかしながら、トレーニングで得られたスキルは、頻回に使ったり復習したりしないと急速に(6-12ヶ月以内に)低下していきます。
CPRスキルの、頻回・短時間のrefreshトレーニングは、スキルの維持や改善に寄与します。能力や証明書の維持のために、このような方針を活用することが注目されてきています。継続的なトレーニング方法は様々ですが、そのうちのいくつかをCPRの質の改善のプログラムとしての最低限のスタンダードとすべきでしょう。

シミュレーションや模擬訓練により、個人やチームのパフォーマンス改善を達成し得ます。これらのトレーニングにより、チーム蘇生のヒューマンファクターの重要性が強調されますし、心肺停止の生存率向上に寄与する重要な系統的プログラムであることが証明されるかもしれません。心肺蘇生トレーニング・教育は一回のコース、一回のイベントと考えるべきではなく、CPRの質を適正化のための継続的な努力における単なる一過程と考えるべきです。

2013年7月9日火曜日

CPR Quality 9:デブリーフィング

心停止イベント後のデブリーフィングは心肺蘇生術のパフォーマンス向上に大変効果的です。デブリーフィングでは、個人の行動やチームのパフォーマンスを振り返り、焦点を定めたディスカッションがなされます。施行されたCPRについての記憶がはっきりしているうちに早期にCPRの質を振り返ると、効果的です。院外心肺停止でも院内心肺停止でも活用し得るし、様々な形式のデブリーフィングが存在します。定期的に、例えば毎週デブリーフィングセッションを設けるような体制も効果的で、それにより、CPRのパフォーマンスが向上したり、院内心肺停止の自己心拍再開率が向上したとの報告があります。院内院外の既存の組織もこのデブリーフィングを効果的に取り入れることができます。デブリーフィングを施行する際には、実際に蘇生処置に関わったプロバイダーが議論に参加することが極めて重要です。
デブリーフィングは、構造化して議論がなされると効果的です。チェックリストを利用する方法もあります。

モニタリングデータをデブリーフィングに取り入得ることでより客観的な視点でアプローチすることができます。

2013年7月8日月曜日

CPR Quality 8: 過換気

過換気を避ける:

「換気回数毎分12回未満」「胸郭挙上は最小限」が推奨されています。

CPR中の陽圧換気は冠動脈灌流圧を低下させます。
換気回数が多かったり、1回換気量が多かったりすることによる過換気は蘇生現場では良く見られることです。
十分に血液を酸素化しつつ、かつ、循環への影響を最小限にすることが、CPR中の換気の目的です。

現行のガイドラインにおいては、換気回数は高度な気道確保(8-10/分)の有無や、患者の年齢・救助者の数(15:2, 30:2)、等に影響されます。他の推奨(胸骨圧迫100-120/分、人工呼吸は1秒など)に準じると、結果的に換気回数は毎分6-12回程度となります。

過換気の有害性についての動物実験の結果は様々のものが混在していますが、過換気が利益をもたらしたという研究は皆無です。

G2010の推奨は妥当であり、毎分12回未満の換気回数とし、陽圧換気の循環への影響を最小限にすることが推奨されます。

換気回数が過剰にならないように、メトロノームを使用することは有用です。



1回換気量は、視覚的に胸郭挙上が確認出来る程度以上に増やすべきではありません。陽圧換気は自己心拍下であっても、CPR中であっても、心拍出量を低下させます。CPR中において低めの1回換気量での換気はPaO2の変動とは有意な関連がありません。加えて、高度な気道確保がなされていない場合、陽圧換気は胃膨満、誤嚥を助長し得ます。CPR中の胸骨圧迫は肺のコンプライアンスに影響を与えますし、至適な換気圧は明らかではありません。CPR中の換気圧と換気容量の相関に関しては良く知られていますが、臨床的なデータが乏しいのが現状です。

一回換気量の過剰を防ぐ方策は確立されていませんが、より小さいバッグマスクを使用したり、マノメーターの使用、よく観察する、ことが挙げられます。



2013年7月6日土曜日

CPR Quality 7: リコイル

Full Chest Recoil: No residual Leaning

不完全なリコイルとは、主に傷病者の胸部にもたれかかることで、その拡がりを阻害するということです。
不完全なリコイルの臨床的アウトカムへの影響は明確ではありませんが、動物実験では右房圧上昇、脳灌流と冠灌流減少、心拍出量減少、左室心筋灌流減少と関連することが示されています。
複数の研究で、多くの救助者が頻繁にCPR中胸壁にもたれかかっており、不完全なリコイルを助長していることが指摘されています。胸壁へもたれることを最小限にすべきです。
また、胸骨圧迫を深くすると、リコイルが不十分になりがちです。背の高い救助者や踏み台を使用した時に、生じ易くなります。至適な深さを達成しつつ、リコイルをモニターすることが推奨されます。即ち、胸骨圧迫の(圧迫と圧迫の)間に胸部への圧を残さず完全に解除されていることを確認することが必要です。

Incomplete chest wall releaseとleaning、chest recoilとchest expansion、、、、
似たような意味の英単語のニュアンスの相違がわかりずらいです。。。

どなたか教えて下さい。。

2013年7月5日金曜日

CPR Quality 6: 疲労

胸骨圧迫は時間とともに質が低下していくことがよくありますが、救助者は質の低下の前に疲労を自覚しないことも多いです。G2010では2分毎の交代を推奨していましたが、胸骨圧迫の質には大きな個人差があります。10分もの間、質の高い胸骨圧迫をできる人もいれば、1分もできない人や、全くできない人もいます。フィードバックデバイス、特に視覚的なもの、の使用はある程度の効果が期待できます。
チームリーダーが、胸骨圧迫者をよく観察して疲労度をモニターすることを推奨します。疲労していたり、不十分な圧迫で、かつフィードバックを試みてもその質が改善できないなら、2分経過していなくても可能な限り早く他のメンバーに交代させるべきです。頻回な交代はCCFの低下につながり得るとする研究もありますが、適切なコミュニケーションと準備にて、交代は3秒以内に可能です。


普段、日常生活の中で、自分としては特に疲れていないつもりなのに、人から「疲れてるね」なんて言われると、ああ、みすぼらしいってことだよなー、老けたってことかなー、と思って若干ブルーになります。なので、あまり人には「疲れているね」とは言わないようにしています。

でもCPR中は、疲れてそうなら「疲れてるねー」と目ざとく指摘しなくてはいけません(笑)。

2013年7月4日木曜日

CPR Quality 5: 胸骨圧迫時の姿勢

胸骨圧迫は、胸骨圧迫者の姿勢に影響されますが、胸骨圧迫の至適な姿勢のコンセンサスはありません。
短時間での圧迫の質の差はないかもしれませんが、立位での胸骨圧迫は、踏み台の使用や立て膝による圧迫よりも労力が増えるように思われます。
踏み台を利用することで深さが改善され得ます(特に背の低い胸骨圧迫者)。従って、至適な高さで胸骨圧迫をすることがその質の維持に重要であり、そのためにはベッドの高さの調整をしたり、踏み台を利用したりすることが推奨されます。

まあ、当たり前といえば当たり前。
深く押せない受講生、特に小柄な女性とか、指導に困ることがあります。決定的な良き方法はあまりないです。ケースバイケースで試行錯誤で、その受講生に合った方法を模索します。


以前、当院のBLS for HCPに、心肺蘇生で有名なアリゾナ大学のKern教授いらっしゃったことがありました。そのとき、至適な圧迫のコツとして、膝間づいてのCPRの場合、両膝を傷病者の脇にぴたっと付けるくらい傷病者に近づいて圧迫することを強調していました。残念ながら、このコンセンサスには、その記載はありませんでしたー。

2013年7月3日水曜日

CPR Quality 4: バックボード

背板、ですね。

胸骨圧迫において、適切な深さを得るためには、下が硬い必要があります。
ガイドライン2010では「CPR中のバックボードの使用についてはエビデンスが不十分で,反対意見もある」とされ、「使用する場合は,CPRの開始が遅れないように注意し,CPRの中断を最小限に抑え,,」あまり肯定的なニュアンスではありませんでした。

このステートメントでは、「バックボードは至適な深さを達成するためによく使われており、救助者の労力も軽減する。可能な限り素早くバックボードを入れたり、硬い地面に移動したりすることを勧告する」と、若干肯定的な表現になったような気がします。
質の高い胸骨圧迫への意識の高まりでしょうか。


我々の普段のコースでは当たり前のように硬い地面や台の上でトレーニングしていますので、正直あまり意識していません。よろしくないですね。
たまには、柔らかいベッドの上でのトレーニングも交えることができるとよいですね。

ずいぶん昔、どこかのACLSコースで、患者の反応が無ければ、院内救急コール、たくさんの人、AED、救急カート、背板を要請すること、と教わった気がします笑 なつかしい。

2013年7月2日火曜日

CPR Quality 3: 胸骨圧迫の深さ

CPR Qualityに関するAHA Consensus Statementについてです。

最近の研究によると、胸骨圧迫の深さは成人で44mm以上が妥当と考えられますが、実際には救助者の圧迫の深さが十分でないことが多数報告されています。50mm以上の深い圧迫により除細動成功・ROSCの率が改善し、38mm未満の浅い圧迫であるとROSCや生存率の低下と関連したとの研究結果があります。

ただ、至適な深さは様々な要素に影響されるものと思われます。例えば、傷病者の体格、環境(マットレスの有無など)、或いは、速すぎる胸骨圧迫は、目標の深さ(5cm以上)に達する割合が低くなる可能性がある、ということもその1つでしょう。従って、「深さ」単独の、アウトカムへの影響を評価することには限界があります。



上記の「44mm」や「38mm」といった具体的数値の記載はG2010にはなかったように思います。
成人に関し、「44mm以上の深さで押す」ことが重要とのデータがあり、かつ勧告より浅い圧迫となるのが常、とうことだから、「50mm以上」で押すように促す勧告は妥当ということなのでしょう。

胸骨圧迫の深さの上限について、ERCでは60mmとする一方でAHAのG2010では上限は設けていませんでした。このstatementにも、深さの上限の記載はありませんでした。マネキンが破壊されそうな強い圧迫をコース中散見しますが、個人的には多少不安を感じることがあります(苦笑)。でも、リコイルがしっかりされているなら、介入する根拠はないですね。
また、小児に関してはデータは不十分であり、乳児、小児ともに、胸郭の1/3以上押すことを目標とするのが妥当、との記載にとどまります。

2013年6月30日日曜日

CPR Quality 2: CCF>80%

CPR Qualityに関するAHA Consensus Statementについてです。

CCFとはChest Compression Fractionの略です。心停止時間のうち、胸骨圧迫がなされていた時間の割合です。心停止時間の定義は、心停止が初めて同定されてから自己心拍再開を達成できるまでの時間です。「中断を最小限」という概念はG2010から全くかわりませんが、「CCFを80%以上にしましょう」と新たな具体的数値を提示しています。CCF低値は、ROSC率低下や生存退院率低下と関連しています。

ただ、通常CPR中はCCFの数値を具体的に把握出来るわけではありませんので、終了後振り返ってみて数値の評価をするということになるのでしょう。CPR中は「胸骨圧迫中断は最小限」をひたすら実践することになります。

CCFを上げるためにCPR中に気をつけることは、主に以下のような項目が挙げられています。

1. チームワーク
ピットクルーのようなチームワークと、チームリーダーを中心としたクリアーなコミュニケーションが必要です。ちなみに、胸骨圧迫交代の際には、適切なコミュニケーションと準備にて3秒以内を達成できると書いてあります。

2. 気道確保時の中断を最小限にする
気管挿管の際にはしばしば胸骨圧迫が長時間中断されうることを忘れてはいけない。声門上デバイスは利用しうるが、気管挿管に比しアウトカムが悪化したとのデータもあります。BVMで適切に換気できていれば、高度な気道確保は「全く」必要ない、かもしれない、、、だそうで、「not….at all」になっています。熟練したプロバイダーが気管挿管するときは、なら、まずは胸骨圧迫を継続しながら喉頭鏡を使用し挿管してみましょう。中断が余儀なくされるなら、10秒以内を目指しましょう。

3. 不必要な脈拍触知を避ける
脈拍触知は、胸骨圧迫中断が長くなるし、そもそも精度が低いスキルです。動脈ラインやcapnography等によるモニタリングで脈拍触知の機会を減らすことができます。

4. ショック(除細動)前の中断を最小限にする
ショック直前には、胸骨圧迫の中断が長くなりがちです。プロバイダーの安全を考える必要があるからです。この中断を最小限にすることでアウトカムが改善しますので、この短縮は大変重要なことです。9秒くらい短くしましょう、、という数値が記載されています。。。。。が、9秒って長くないですか(笑)?もっと短縮できるといいですね。該当文献読んでいませんが、読んでみたいです。。。
パドルではなく、パッドを使えば、充電中も胸骨圧迫を継続しやすいので、これを推奨しています。その他、胸骨圧迫による心電図ノイズを軽減する機器などの新しいテクノロジーも役立ちそうです。
ショック後に胸骨圧迫をすぐに再開することも重要です。Stacked shock(立て続けのショック)をせずに、ショック後1-2分のCPRをした後にリズム解析を行う方法にしたところCCFが48%から69%まで増加し、生存率向上に関連したとのデータがあるそうです。このような具体的なデータを出すと説得力ありますね。


まあ、G2010と比し、目新しいところは、あまりない(笑)ですが、より具体的な表現になって来ており、その重要性が感じられますし、「実践」の指標になります。

2013年6月28日金曜日

CPR Quality 1: CPRの質向上の順序

CPRの質について、AHAからコンセンサスステートメントが出ています。

http://circ.ahajournals.org/content/early/2013/06/25/CIR.0b013e31829d8654.full.pdf+html

ざっくり読みましたが、なかなか興味深い記載が多いです。
中でも、以下は、すぐにでも参考になりそうです。

CPRの効果が不十分な場合、チームリーダーは次の順序で胸骨圧迫の質の適正化を試みましょう。この順序の根拠の1つは各々のエビデンスの強さです。

①胸骨圧迫時間/全蘇生時間(CCF) >80%
②速さ 100-120/分
③深さ >5cm
④フルリコイル
⑤過換気を避ける 胸郭挙上最小限、<12/分

中断時間を最小限にすることが最重要なことが分かります。胸骨圧迫の速さについては、速すぎると冠血流が減少する可能性があり、また目標の深さ(5cm以上)に達する割合が低くなる可能性がある、とのことで100-120/分を推奨しています。この範囲を下回っても、上回っても、生存退院率が低下する、と記載されています。あとの項目の内容自体はあまり変わっていませんね。

AHAガイドライン2010に記載されていない事項も含んでいますので、AHAコースで上記を話す必要は全くありませんが、頭の片隅に入れておくと世の中の為になるかもしれません。

上記文献、BLS/ACLSインストとして参考になることが多いので、英語の勉強だと思って、英語の苦手な方も読んでみると役立つと思います。

2013年6月27日木曜日

教育環境と状況判断

六本木ライブでふと思った事。日本で重症多枝病変にPCIをすることが多い理由は、「日本人はロジカルに物事を考える教育を受ける機会が少ない環境で育ってきたから」、という仮説。

複数の冠動脈に狭窄病変を有していたり(多枝病変)、特に左冠動脈主幹部という重要な部位に狭窄病変を有していたりすると、PCI(カテーテル治療)よりもCABG(冠動脈バイパス手術)が選択されることが世界的には一般的です。生命予後や、再治療を含めた治療回数、非致死的イベント、治療コスト、等が、PCIよりもCABGのほうが少ないからです。要は、良好な経過を辿る確率が高いわけです。
欧米ではそのような考えに基づいて治療選択されますので、CABGの割合が高いです。日本は、PCIの割合が高いです。多様な理由が混在している、例えば、欧米は重症多枝病変が多いとか、病院がセンター化されているので1病院あたりの症例が多く、CABGの技術が高いとか、器用でないのでPCIが上手でないとか、逆に、日本のCABGは症例が少ない施設であると技術が劣るとか、PCIは器用で上手とか、切られるのを避けたい文化とか、、、、。保険制度の相違も1つでしょう。確かに、その環境に応じた判断を最終的に下すことはあり得ることではあります。

日本の教育は、いわゆる受験勉強で、あまり考えない教育。即ち、「答え」があって、それを覚えて、試験で再現できれば成績良好、、、ということが主です、少なくとも我々の時代はそうでした。従って、あまりロジカルに物事を考えて行く習慣が成長過程で促されません。一方、欧米は、グループディスカッションや、ディベート等、自分で考えて、意見する、といった教育がとられていることが多いと理解しています。限られた情報の中で判断し、最善解、即ち相対的に最も確率の高い選択肢を選ぶ。そうでないと、人を説得することはできません。そのような習慣が、幼少時から根付いています。そのような背景がありますので、多枝病変に対する治療は、現在までに蓄積されたデータから判断すると、CABGを選択することが最も確率的に良かろう、という判断が導かれることは、当然のことです。日本は、何となく低侵襲だからPCIが良いのでは、とか、患者が希望しないからとか、一見最もらしい理由でCABGでなくPCIが選択されることが多いです。そこに明確なロジックが存在しない場合が少なくないと感じています。

最近「教育」に接する機会が多いせいか、自分なりに、これまでとは異なった切り口・視点で物事を見ることがたびたびです。

2013年6月26日水曜日

目的を忘れない

もうひとつ六本木ライブネタ。90歳弱の超高齢者、LAD CTOの他、LCXとHLにも病変あり。狭心症症状が増悪傾向、薬物抵抗性とのことで(当然CABGは年齢からムリ)やむなくPCIとなった症例。PCI適応自体は超高齢とはいえ、症状を取ってあげたいし、仕方の無いところです。。主に3つの病変がありますが、どの病変が最も狭心症症状を来しているかは不明です。PCIの目的は、症状を軽減してあげること。 その治療を、CTOから治療を開始することに異論はありません。しかしながら、石灰化と蛇行で思いのほかLAD CTOの治療に苦労しました。術者のCTO MasterのT先生でも、2時間経ってもワイヤー通過しません。ワイヤーは7本使用。 感じたことは、PCI中は「このPCIの目的」を常に忘れてはいけない、ということです。CTOが難渋するなら、他の狭窄病変のみ治療する方針もありでしょう。恐らく、経過からは、元々CTOがあり、それに加え、高度狭窄病変が新規に進行し、症状が強くなった、、可能性のほうが高いようにも思いました。従って、それら狭窄病変を治療すれば、少なくとも、悪化前の状態には戻せるし、QOLも回復することが期待できます。PCIをしていると、いつしか、その病変(今回の場合はLAD CTO)を治療すること、或はガイドワイヤーを通す事、、、が目的にすり替わってしまうことがあります。常に、元来の目的を意識し続けることが大事と感じました。 これは、PCIに限らないですね。人生もそう(笑)。 このライブ症例は、さすがCTO MasterのT先生、苦労の末ガイドワイヤーを通過させ、LADの血行再建に成功しました。さすが名人です。ライブだから、CTO Masterが術者だから、長い時間かけ、多くのデバイスを使い、手技を続けた、とも考えられます。ライブを見ていた聴衆も、自分を含め、T先生が、どのような技術でこの難関を超えるのか、見たかったし、期待もしていました。結果が良くて、良かったですが、結果論です。実臨床でこのような展開になれば、一般的には、CTO治療は断念する可能性が高いと思います。 ライブは、非常によい教育の機会でありますが、その一方で、”ショー”である面があることも否めません。患者さんにデメリットが生じないように留意することが必要です。そんな感想を抱いた症例でした。

2013年6月24日月曜日

六本木ライブの、とあるセッション、CTO症例。コメンテーターの1人がTハートセンターのN先生。ご存知の通り、Tハートセンターは世界を代表するCTO interventionalistsが複数所属するCTOでは世界一といっても良い施設。N先生自身はまだ若手ですが、そのような一流の環境に身を置いているせいか、CTO症例を見る眼が、真剣そのもの。食い入るような目つきは、明らかに他のコメンテーターと一線を画しているように感じました。コメンテーターとしてのコメントも的確で、ライブ術者にとっても貴重な情報も提供されていました。 人は、自分が得意とする分野や、自分が興味ある分野、には本当に真剣になります。他の人には見えないことも、見えてきます。プロとはそういうことなのでしょう。逆に、臨む姿勢が甘かったり、経験や知識が少ないと、見える物も見えません。 また、物事を学ぶには、一流の元で学ぶことが、最も効果的効率的と言えるでしょう。CTOにおけるN先生もまさにそうなのでしょう。CTOを学ぶには、CTOのspecialistから学びを得るのが一番です。カテに限らず、自分が学びたい分野、目指したい分野が明確なら、その分野で世界一の環境に身を置く事が、近道。 僕自身は、そんな環境に身を置いた事がありませんから、無責任な意見といえば、その通り。

2013年6月23日日曜日

六本木ライブデモンストレーション2013

前回投稿が2012年11月。久し振り。 先日久し振りのCTO(慢性完全閉塞病変)治療を行いましたが、「久し振り」ゆえに思うようなアプローチができませんでした。主な理由は「CTOとの接点が足りない」こと、と感じました。 手技向上維持するためには、多くの症例を頻回に経験することが最重要です。そうでなくともライブ等で”疑似”経験することも有用と思っています。当施設はいわゆる”カテ施設”ではありませんし、治療方針決定はガイドラインに近い(標準的)のでCTOの数も多くはありません。つまり、経験数がすくない。また、個人的に最近CTO club等学会やライブにもなかなか参加できず、"疑似”経験も少なめ。 これを是正すべく、昨日は心臓カテーテル治療の六本木ライブデモンストレーション2013に参加しました。心臓血管研究所付属病院からの中継です。心臓血管研究所の先生方は、このような教育的機会を多数開催しており、有り難いです。苦労も多いかと思いますが、カテーテル治療向上に役立っていることでしょう。今後も続けて頂きたいですね。 さて、ライブ内容としてはほぼ全例CTO症例でした。そのため、自分の目的に合致したプログラムで、特に個人的に苦手な順行性アプローチ症例中心でしたので、学ぶところは多々ありました。あまり細かく書いても、マニア過ぎますので書きません。 ただ、ライブ症例や、プレゼンに出てきた症例など、「標準的な治療方針としてはバイパス手術が妥当」、と思われるものが少なくありませんでした。それを、当たり前のようにPCIで治療すること、その点にあまり議論が及ばないこと、に大変な違和感を感じました。これは今に始まったことではなく、カテライブや学会ではいつも感じる事です。 その中で、今回更に衝撃を受けた言葉があります。とあるセッションの座長が 「最近の若い医師は(冠動脈多枝病変の患者に対し)教科書通りバイパス手術の話をしてしまう。残念だ。」 というような趣旨のことを話されました。即ち、「冠動脈多枝病変患者でも、バイパス手術の話などせずに、どんどんPCIで治療しようじゃないか!」ということです(苦笑)。 勿論教科書・ガイドラインが全てではないし、個々の病態や患者背景、環境などを考慮したうえで最終的な治療方針を決めることになりますので、多枝病変をPCIすることは当然有り得ます。しかしながら、限られた情報の中であれ、より良好な成績が期待でき得るバイパス手術の選択肢を提示することは、インターベンショナリスト、循環器内科医の「義務」と思っています。日本を代表するようなインターベンションの先生が、座長が、公の場で、このような発言をすることが、大変残念に感じられました。せっかくのライブデモンストレーションの価値も下げてしまうような、そんな発言と思いました。