2009年7月13日月曜日

診断が難しかった急性冠症候群

循環器医ですから胸痛を訴えて救急外来を受診する患者の対応をすることは大変多いです。急性冠症候群の多くは問診で診断がつきます。心電図、心エコーを組み合わせればほぼ万全です。そんなことを10年以上やっていますから、本物の急性冠症候群患者を見逃すことはまずないと思っていますが、こんなことがありました。
中年男性。数年前から月に1度くらいの頻度で起こる、持続時間10秒程の胸苦しい感じ。30秒くらい続くこともあるが水を飲むと治まるとのこと。労作時には起こらない。
内科でホルター心電図を施行し、装着中にも同症状が数回生じているが、いずれも心電図変化は伴わず。冠危険因子は高脂血症のみ。
今回はいつもと同じ症状だが少し長く(1時間くらい)続くとのことで救急外来に救急車で搬入。有症状時の救急隊心電図モニターはST変化なし、病的不整脈なし。当院受診後の症状は軽減傾向とはいえ、まだ持続。有症状時の12誘導心電図はほぼ正常。同心エコーでも左室壁運動異常なし。もちろんトロポニンT定性検査も陰性。

来院後間もなく症状は自然消失。心電図経時的変化なし。胸部単純レントゲンで縱隔に異常陰影を疑う所見あり、念のため胸部造影CT撮影、結果的には問題なし(ついでに急性大動脈解離も否定できた)。胸部症状の原因は不明だが(消化器系由来の可能性が高いと推測)、リスクは低いとして帰宅させました。

しかし、その後も自宅で同じ症状を繰り返したようで、数日後に症状が1-2時間続くとのことで再度来院。来院時胸部症状持続、すぐに記録した12誘導心電図ではST上昇していました。


緊急冠動脈造影では左冠動脈前下行枝近位部90%狭窄の1枝病変。急性冠症候群に矛盾しない造影所見でした。引き続きPCIを施行しました。その後の経過は幸い順調です。

かなり診断が難しい方だったと思います。

今回初めに救急外来受診されたときは、①虚血性心疾患としては非典型的な症状②有症状時の心電図変化なし③有症状時の心エコーも左室収縮異常なし④心筋マーカーも上昇せず
ということで、虚血性心疾患ではないと確診し、少なくとも低リスクとして帰宅させました。
結果的には、そのときも心筋虚血症状だった可能性が高いでしょうか。それとも、そのときは非心筋虚血だったのでしょうか。心筋虚血なら、なぜ(異常が出易い左前下行枝なのに)客観的異常所見が伴わなかったのでしょうか。。。。。症状が軽減していたので、心電図やエコーでの所見が分かりにくかったのでしょうか(収縮能評価の限界?やっぱ拡張能か)。有症状とはいえ、症状軽減時の心電図、エコー所見の評価は一見異常がなくとも、(左前下行枝であっても)虚血は否定できないと考える必要がありそうです。
虚血性心疾患ではないと考えたため、後日の負荷検査も予定しませんでしたが、一応予定すべきだったと反省しました(負荷検査中に危険を生じるかもしれませんが、自宅で発作を繰り返すよりはましだったと思います)。
本人が”同じ症状”と表現しても、実は異なる原因による症状が混在していることもあり得ます。本当の急性冠症候群の発症はいつだったんでしょうか。
いろいろ思い悩んで、記事を一度upしてからもまた書き直ししています。

いずれにしても、患者さんの経過は良好なのでよかったです。
年はくっても、日々学ぶことが多いです。次に活かします。

2 件のコメント:

  1. 大変な症例でしたね。私はこう言った患者さんが来た場合、循環器の先生が何ともないと言っても私が主治医で入院してもらっています。

    翌日も嫌み?で循環器外来を受診してもらいます。だから嫌われているのでしょうね(^.^)。

    胸痛は怖いですから!!

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  2. それが最も安全な対応と思います!嫌み言われても、安全が一番です(笑)。

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